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日本タイクラブ 木本壽美惠(きもとすみえ)
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01カンボジアのパクブン・ファイデーン

 10年に一度くらいの割合で歯が痛くなる。定期的に半年検診はしているのだが、エントロピーの増大にしたがってあちこち悪くなるのは、いたしかたないところである。今回のタイ・カンボジア旅行には治療の合間に行ってきた。そして、昨日、歯の神経の生き死にのチェックを行った。

 「なんかまだ痛いところがあるな」とは思っていたのだが、やつは生き残っていた。私の神経は相当しぶといようで、3本ある神経のうちの最後の一本の根が長くて、尻尾のところが生き残っていたのである。最初はぴりっと痛かった。途中はとても痛かった。先生が「歯に神経を集中せずに何か楽しいことを考えなさい」とおっしゃったので、空を飛ぶことや、大海原を行くことを考えてみたがどこかしらピンと来ない。そもそも改めて楽しいことは何だろうかなどと考えはじめたので、気持ちを切り替えて最終的に選んだ思考の内容は「パクブン」だった。

 今回もたくさんパクブン・ファイデーンを食べた。特に茎のところの空洞を意識しながらパリッと噛みきるときの食感が好きである。味付けの違いでバリエーションがあるのも魅力的だ。もちろんタイでも食べた。そしてカンボジアでもたくさん食べられていることを知った。

 日本でもタイでもカンボジア料理はまずいとさんざん言われてきた。日本では友人が「何か非常食を持っていかないと、あの椰子油がねえ」とアドバイスしてくれたし、タイでもグッチさんが「いやぁー、カンボジア料理はまずいですよ」とおっしゃっていた。カンボジアには1991年にも行ったことがあるのだが、その時カンボジア料理に対してそんな感想をもった覚えは無かった。「まずい」と思ったら覚えているだろう、私なら。

 それで、結局私の得た結論は「カンボジア料理もそれなりにいける」ということだ。辛くないタイ料理とでも言ったらいいのだろうか。酸味が強いし、味付けは単調だが、それでもヨーロッパの料理に比べたら、比較の対象にならないぐらいおいしい。パクブン・ファイデーンも美味しいのにあたった。海老味噌の味付けのもので、タイではあまり食べたことがない美味しいものだった。歯医者では、タイ風の味付けのものと、このカンボジアで食べた海老味噌風のパクブン・ファイデーンを思い描いて窮地をしのいだ。

 ところで、今回はイサーンのピマイにも行ったのであるが、シェムリアップとは陸路なら相当近い距離である。我々はタイ料理とカンボジア料理を分けているが、現在の目に見えない国境はクメール時代や、アユタヤ時代には存在しなかった。どちらでも広く大衆にパクブンは受け入れられている。「カンボジア料理もタイ料理もそう変わらないのでは」と言う私の横で夫は「そんなことは断じてない!阪口さんが正しい。アハーンタイ アロイ マーク グワー アーハンカメーン」と私が教えてやったタイ語のフレーズを(バカの)一つ覚えに口ずさんでいる。

 皆さんはどう思いますか。アハーンタイ アロイ ナ!

 

 

部長秘書による脚注

【パクブン・ファイデーン】
空芯菜炒め。アジア各地で見られる茎状の野菜(水草)を炒めた大衆料理。タイではピリ辛にするためにニンニク・唐辛子と炒めるのが特徴。味付けによって各店の個性が演出される。

【エントロピーの増大】
熱力学や情報理論などで用いられる用語であるが、歯痛に対して用いるのが適切であるかどうかはここでは言及しない。

【今回のタイ・カンボジア旅行】
'02.12.26〜'03.1.6。前半はタイ国内でバンコクほかコラートへ。後半はカンボジアはシェムリアップでクメール遺跡巡り三昧。

【最終的に選んだ思考の内容】
これが「パクブン」だったとは笑わせる。だいたい極限状態においては人間の本性が否応なく現れるものである。

椰子油
タイ料理に使われているのかどうかは浅学につき不明。

 

【それなりにいける】
あくまで「それなり」であってタイ料理の絶対的優位性はゆるぎ無い(と思う)。

味付けは単調
タイ料理で用いられる香辛料の複雑なハーモニーに慣れてしまうと、他の料理はあっさりしすぎていて物足りなさを感じるようである。あるタイ人が日本食のことを「シンプルすぎる」と言っていたのを思い出す。

アハーンタイ アロイ マーク グワー アーハンカメーン
「タイ料理はカンボジア料理よりも美味しい」

→ 02ソムニエさんと日本語

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